歌に私は泣くだらう: 妻・河野裕子 闘病の十年 永田 和宏 著


知性のある人の文章や短歌は、こんなにも分かりやすい言葉で、心に深く響く。


今までに読んだ本では、文章中に短歌が出てくると、思考が停止してしまい、読み飛ばしてしまうことがほとんどでした。いきなり難解になる感じがして。


ところが、河野さんの短歌は、全てが、すんなりと読めて、すーっと心の中に入ってきました。ひとつひとつが、簡単なようでいて、隙がなく完璧。女性の心に深く訴えます。

そして、いくつかの素晴らしい短歌については、暗誦できる位、記憶にしっかりととどまってくれています。

私のような凡人に、そういった力を発揮するという点で、本当に、短歌の天才なんだなと感じました。

ご主人である永田さんの文章や短歌も、非常に分かりやすく、読みやすかったです。そして、ここまで赤裸々で良いのかと思うくらい、赤裸々に、闘病と、最後の夫婦の日々を記録しています。

プラスの部分も、マイナスの部分も。

女性としての、深い情念、夫への愛情に、すごくすごく、感動しました。ここまで一途に思えるって幸せ。でも、どんなに愛し合う二人でも、何らかの形で別れが来るのだなあ、と。

死の直前の、最後の歌が、本当に、素晴らしい。

ご主人は、モルヒネで意識を混濁させなかったことで、この歌を書きとることができた、と残しておられます。


モルヒネを使うことで、この歌を夫に伝えられなかったとしたら。

河野さんにとっても、それはとてつもなく口惜しいことだったろうと思います。そういった意味では、河野さんのことを深く知るご主人の、最善の判断だったんだな、と感じました。


まるで、完璧な映画を見るような。

でも、作りごとではなくて、そこには本当の真実があると、感じることの出来る、家族の壮絶な闘病記です。

2013/10

 

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